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東京地方裁判所 平成6年(ワ)11625号 判決

原告 株式会社日産フィナンシャルサービス(旧商号 株式会社日産クレジット)

右代表者代表取締役 中村稔

右訴訟代理人弁護士 大須賀忠雄

同 中村眞一

同 畑克海

被告 三井海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 井口武雄

右訴訟代理人弁護士 溝呂木商太郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、三三億六八八〇万円及び内金八億円に対する平成二年一二月二二日から、内金一二億円に対する平成三年二月二二日から、内金二億三三八〇万円に対する同年三月一四日から、内金六億円に対する同年四月一一日から、内金二億五〇〇〇万円に対する同年六月一一日から、内金二億八五〇〇万円に対する同月一四日から、いずれも支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、原告と保険契約者との間の立替払契約に基づき、被告と保険契約者との間の損害保険契約に係る一時払保険料を立替払して被告に送金した後、被告が、保険契約者に対して右保険契約に基づき契約者貸付けを行ったところ、原告が、被告に対し、<1>右保険契約又は立替払契約は無効であるとして不当利得返還請求権に基づき、右送金額の返還及び各送金日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、又は<2>被告は原告との間で締結した業務提携契約に違反したなどとして債務不履行に基づき、若しくは<3>被告は原告の担当者の背任行為を知りながらあるいは知り得たにもかかわらず、原告の担当者をして右送金をさせたことなどが違法であるとして不法行為に基づき、それぞれ右送金相当額から解約返戻金等充当後の残額の損害賠償及び各送金日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を選択的に請求する事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は、顧客の加盟店に対する商品購入代金等を立替払することなどを目的とする株式会社である。

被告は、保険業を営む株式会社である。

2  ニッサンパックローン協定の締結

原告は、保険会社と損害保険契約を締結する保険契約者(顧客)の委託を受けて、保険会社に一時払保険料を立替払するニッサンパックローンという名称のクレジット商品を取り扱っており、そこでは、原告が、立替金債権の保全のため、保険契約者の保険会社に対する保険金請求権等に質権を設定し、保険会社が顧客(保険契約者)に契約者貸付けを行うには、原告の承諾を必要とした。

原告は、被告との間において、昭和五九年ころ、ニッサンパックローン協定書を取り交わして右商品の取扱いを開始し、その後昭和六一年三月一日及び昭和六二年一〇月一日に順次右協定を更新した。

3  保険契約の成立

被告は、顧客との間で、次のとおり、損害保険契約を締結した(以下、六つの保険契約を合わせて「本件各保険契約」といい、顧客六名を合わせて「本件各保険契約者」という。)。

(一) 株式会社新日本ファンド(以下「新日本ファンド」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(一)」という。)

(1)  契約日 平成二年一二月二一日

(2)  保険種目 長期総合保険

(3)  付保対象物件 別紙一のとおり

(4)  保険金額 合計九一億三七六四万円(明細は別紙一のとおり)

(5)  一時払保険料 合計八億〇四〇〇円(明細は別紙一のとおり)

(6)  保険期間 平成二年一二月二一日から平成七年一二月二一日まで五年間

(二) 有限会社松村企画(以下「松村企画」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(二)」という。)

(1)  契約日 平成三年二月二〇日

(2)  保険種目 長期総合保険

(3)  付保対象物件 別紙二のとおり

(4)  保険金額 合計一三六億一九〇〇万円(明細は別紙二のとおり)

(5)  一時払保険料 合計一二億〇〇〇六万七五一〇円(明細は別紙二のとおり)

(6)  保険期間 平成三年二月二一日から平成八年三月二一日まで五年間

(三) 株式会社エンドレス(旧商号新日綜観光開発株式会社。以下「エンドレス」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(三)」という。)

(1)  契約日 平成三年三月一二日

(2)  保険種目 長期総合保険

(3)  付保対象物件 別紙三のとおり

(4)  保険金額 合計二五億八二〇〇万円(明細は別紙三のとおり)

(5)  一時払保険料 合計二億三三八二万六八〇〇円(明細は別紙三のとおり)

(6)  保険期間 平成三年三月一三日から平成八年三月一三日まで五年間

(四) 株式会社まんさく高原(以下「まんさく高原」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(四)」という。)

(1)  契約日 平成三年四月一一日

(2)  保険種目 長期総合保険

(3)  付保対象物件 別紙四のとおり

(4)  保険金額 合計六八億五三二二万七〇〇〇円(明細は別紙四のとおり)

(5)  一時払保険料 合計六億〇〇三〇円(明細は別紙四のとおり)

(6)  保険期間 平成三年四月一一日から平成八年四月一一日まで五年間

(五) 北嶋泰治(以下「北嶋」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(五)」という。)

(1)  契約日 平成三年六月一〇日

(2)  保険種目 長期総合保険

(3)  付保対象物件 別紙五のとおり

(4)  保険金額 二八億五五五一万一〇〇〇円

(5)  一時払保険料 二億五〇〇〇万円

(6)  保険期間 平成三年六月一二日から平成八年六月一二日まで五年間

(六) 株式会社武蔵野商事配送センター(以下「武蔵野商事配送センター」という。)との間の損害保険契約(以下「本件保険契約(六)」という。)

(1) <1> 契約日 平成三年六月一三日

<2> 保険種目 長期総合保険

<3> 付保対象物件 別紙六の1のとおり

<4> 保険金額 合計二九億四六六〇万円(明細は別紙六の1のとおり)

<5> 一時払保険料 合計二億五八二八万二六九〇円(明細は別紙六の1のとおり)

<6> 保険期間 平成三年六月一三日から平成八年六月一三日まで五年間

(2) <1> 契約日 平成三年六月一三日

<2> 保険種目 積立ファミリー交通傷害保険

<3> 被保険者 安田友義他六名(明細は別紙六の2のとおり)

<4> 保険金額 合計九億八〇〇〇万円(明細は別紙六の2のとおり)

<5> 一時払保険料 合計四一七一万八六〇〇円(明細は別紙六の2のとおり)

<6> 保険期間 平成三年六月一三日から平成八年六月一三日まで五年間

なお、被告の担当者は、本件保険契約(一)ないし(四)、(六)(新日本ファンド、松村企画、エンドレス、まんさく高原及び武蔵野商事配送センター)については、被告長野支店上田支社支社長川久保達也(以下「川久保」という。)、本件保険契約(五)(北嶋)については、被告東京営業第一部駿河台営業課課員大内睦弘(以下「大内」という。)であった。

4  立替払契約の成立

原告は、次のとおり、本件各保険契約者との間で、本件各保険契約の一時払保険料の立替払契約を締結し(以下、六つの立替払契約を合わせて「本件各立替払契約」という。)、右契約に基づき被告に送金した。なお、原告の担当者は、当時、原告関西支社大阪営業所所長代理であった森口房好(以下「森口」という。)であった。

(一) 新日本ファンドとの間の立替払契約(以下「本件立替払契約(一)」といい、本件保険契約(一)と合わせて「本件フラワープラン(一)」という。)

(1)  送金日 平成二年一二月二一日

(2)  送金額 八億円

(二) 松村企画との間の立替払契約(以下「本件立替払契約(二)」といい、本件保険契約(二)と合わせて「本件フラワープラン(二)」という。)

(1)  送金日 平成三年二月二一日

(2)  送金額 一二億円

(三) エンドレスとの間の立替払契約(以下「本件立替払契約(三)」といい、本件保険契約(三)と合わせて「本件フラワープラン(三)」という。)

(1)  送金日 平成三年三月一三日

(2)  送金額 二億三三八〇万円

(四) まんさく高原との間の立替払契約(以下「本件立替払契約(四)」といい、本件保険契約(四)と合わせて「本件フラワープラン(四)」という。)

(1)  送金日 平成三年四月一一日

(2)  送金額 六億円

(五) 北嶋との間の立替払契約(以下「本件立替払契約(五)」といい、本件保険契約(五)と合わせて「本件フラワープラン(五)」という。)

(1)  送金日 平成三年六月一〇日

(2)  送金額 二億五〇〇〇万円

(六) 武蔵野商事配送センターとの間の立替払契約(以下「本件立替払契約(六)」といい、本件保険契約(六)と合わせて「本件フラワープラン(六)」という。また、本件フラワープラン(一)ないし(六)を合わせて「本件各フラワープラン」という。)

(1)  送金日 平成三年六月一三日

(2)  送金額 二億八五〇〇万円

5  契約者貸付けの実行

本件各保険契約者は、次のとおり、被告から、本件各保険契約に基づき、契約者貸付けを受けた(以下、六つの契約者貸付けを合わせて「本件各契約者貸付け」という。)。

(一) 新日本ファンドが受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(一)」という。)

(1)  借入日 平成二年一二月二六日

(2)  借入額 六億八八四〇万三九七〇円

(3)  借入利率 七・四パーセント

(二) 松村企画が受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(二)」という。)

(1)  借入日 平成三年二月二五日

(2)  借入額 一〇億三一二九万六〇〇〇円

(3)  借入利率 七・一パーセント

(三) エンドレスが受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(三)」という。)

(1)  借入日 平成三年三月一九日

(2)  借入額 一億九九八三万六〇〇〇円

(3)  借入利率 六・八パーセント

(四) まんさく高原が受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(四)」という。)

(1)  借入日 平成三年四月一六日

(2)  借入額 五億一六〇〇万円

(3)  借入利率 七・〇パーセント

(五) 北嶋が受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(五)」という。)

(1)  借入日 平成三年六月二四日

(2)  借入額 一億七五〇〇万円

(3)  借入利率 七・〇パーセント

(六) 武蔵野商事配送センターが受けた契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け(六)」という。)

(1)  借入日 平成三年六月一四日

(2)  借入額 二億五八七一万一〇〇〇円

(3)  借入利率 七・〇パーセント

6  保険契約の解約

(一) 本件保険契約(一)について(乙五ないし七の各1ないし10)

原告は、新日本ファンドの被告に対する本件保険契約(一)の保険金請求権等につき、本件契約者貸付け(一)を前提に質権の設定を受け、新日本ファンドが、平成四年二月四日、原告との合意に基づき、本件保険契約(一)を解約したので、被告は、原告に対し、解約返戻金から本件契約者貸付け(一)の貸付元利金を差し引いた四一四五万八六三〇円を支払った。

(二) 本件保険契約(二)について(乙一〇の1ないし13)

松村企画は、平成三年八月一六日、本件保険契約(二)を解約したので、これに基づいて、被告は、松村企画に対し、解約返戻金から本件契約者貸付け(二)の貸付金を差し引いた八〇〇八万八九九〇円を支払った。

(三) 本件保険契約(三)について(乙一四の1、2)

エンドレスは、平成三年八月二七日、本件保険契約(三)を解約したので、これに基づいて、被告は、エンドレスに対し、解約返戻金から本件契約者貸付け(三)の貸付金を差し引いた一六二一万一三三〇円を支払った。

(四) 本件保険契約(四)について(乙一七の1ないし3)

まんさく高原は、平成三年八月一六日、本件保険契約(四)を解約したので、これに基づいて、被告は、まんさく高原に対し、解約返戻金から本件契約者貸付け(四)の貸付金を差し引いた四五五九万六九六〇円を支払った。

(五) 本件保険契約(五)について(乙二〇ないし二二)

原告は、北嶋の被告に対する本件保険契約(五)の保険金請求権等につき、本件契約者貸付け(五)を前提に質権の設定を受け、北嶋が、平成四年六月一三日、原告との合意に基づき、本件保険契約(五)を解約したので、被告は、原告に対し、解約返戻金から本件契約者貸付け(五)の貸付元利金を差し引いた五八六五万六七二〇円を支払った。

(六) 本件保険契約(六)について(乙二五及び二六の各1、2、二七の1ないし3)

原告は、武蔵野商事配送センターの被告に対する本件保険契約(六)の一部(前記3(六)(1) の保険契約)の保険金請求権等につき、本件契約者貸付け(六)を前提に質権の設定を受け、武蔵野商事配送センターが、平成四年九月一日及び平成五年二月一日、原告との合意に基づき、本件保険契約(六)を解約したので、被告は、解約返戻金から本件契約者貸付け(六)の貸付元利金を差し引いたのち、原告に対し、一三一七万九一八〇円を、武蔵野商事配送センターに対し、一五二万三六六〇円を支払った。

二  争点

1  不当利得返還義務の有無

(原告の主張)

(一) 保険契約の無効

(1)  本件各保険契約は、次の<1>ないし<4>で述べるとおり、無効である。

<1> 公序良俗違反による無効

本件各保険契約は、以下のとおり、その目的、方法、内容において異常な保険契約となっており、保険制度の社会的使命、社会的意義に反するから、公序良俗違反により無効である。

a 保険契約締結の目的の不法性

本件各保険契約締結の目的は、損害の填補を受けることや満期返戻金を受けることではなく、本件各保険契約者が契約者貸付制度を利用して被告から早期に融資を受けることにあったのであり、保険制度を逸脱している。

b 保険契約締結の方法の違法性

本件各保険契約は、手元資金の乏しい本件各保険契約者と被告とが、原告の立替払制度を利用して保険契約を成立させ、その直後に本件各保険契約者が被告から融資を受けたものであり、これは当時の大蔵省の不動産融資規制通達を潜脱するとともに、保険業界の自主規制であるダブルローンの実行禁止、積立型保険の法人契約の引受禁止に抵触している。

さらに、保険契約の勧誘目的が契約者貸付制度を利用した融資にある以上、その募集方法も保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)一一条及び一六条に抵触するおそれが強い。

c 保険契約内容の異常性

本件各保険契約の内容は、いずれも常軌を逸した異常なものである。これは、高額な契約者貸付けをするため、高額な保険金額を設定して、一時払保険料を高額にする必要があったからである。

<2> 架空保険、虚偽保険、超過保険、重複保険等による無効

本件各保険契約は、以下の事由のいずれかに該当し、無効である。

a 架空保険

付保対象物件が不存在の保険契約は、被保険利益がないから無効である。

b 虚偽保険

保険証券記載の付保対象物件の所在地、構造、階数、床面積等の全部又は一部が不動産登記簿の記載に照らして現存する建物と異なっている保険は、建物の同一性が認められず、被保険利益は存在しないから無効である。

c 目的外物件に対する保険

長期総合保険となり得ない物件を付保対象物件とした保険契約は、目的物件が存在しないこととなり、被保険利益は存在しないから無効である。

d 第三者所有物件に対する保険

第三者所有の物件を付保対象とする保険契約は、保険契約者が委任を受けずに他人のために契約した場合、そのことを保険者に告げなかったときには、商法六四八条により無効である。

また、被保険者の同意を得ない人保険も同様である。

e 超過保険

保険金額が目的物件の保険価額を超過した場合、右超過部分は商法六三一条により無効である。

f 重複保険

内容を同じくする数個の保険契約が同時に成立した場合(同時重複保険)、保険金額の合計が保険価額を超過する部分については各保険契約はそれぞれの保険金額の割合に応じてそれぞれ一部無効となる。

また、内容を同じくする数個の契約が相次いで、すなわち、時を異にしてされた場合(異時重複保険)、前に締結された保険契約は、それ自体超過保険でない限り、その保険金額の全部について有効であり、後の保険契約は、前のそれの保険金額が保険価額に不足する額を限度としてのみ有効であり、超過した部分は無効となる。

<3> 立替払契約の無効による保険契約の無効

後記の保険契約と立替払契約との発生上の牽連関係に基づき、立替払契約が無効の場合には、保険契約も当然に無効となるところ、本件各立替払契約は後述のとおり無効であるから、本件各保険契約は無効である。

<4> 調査義務違反による保険契約の無効

被告は、本件各保険契約の締結に当たり、保険契約者から告知された重要な事項につき調査すべき義務を怠り、前記<2>aないしfの事由の存在を看過したから、本件各保険契約は無効である。

(2)  保険契約の無効は絶対的無効であり、原告は、保険契約の無効を主張することができる。また、原告は、本件各立替払契約に基づき保険料を立替払しており、保険料支払債務の有効性について直接の利害関係を有しているのであるから、本件各保険契約の無効を主張する法律上の地位を有している。

(二) 立替払契約の無効

本件各立替払契約は、以下のとおり無効である。

(1)  無権代理等による立替払契約の無効

<1> 森口は、原告の大阪営業所の所長代理であり、ニッサンパックローンについても、本件各フラワープランについても、それを実行して契約を締結する権限を有していなかったから、本件各立替払契約は、権限のない者が締結した無効な契約である。

<2> 仮に、森口に本件各立替払契約の締結権限があったとしても、森口はその権限を濫用して本件各立替払契約を締結したのであり、一週間以内という非常に短期間で本件各フラワープランが実行されているなどの経緯に照らし、被告らは右権限濫用行為を知っていたか、又は知らないことについて過失があった。

(2)  要素の錯誤による立替払契約の無効

本件各保険契約は、公序良俗違反により、又は架空保険等により無効であり、かつ被告が原告に無断で契約者貸付けを行った結果、原告は解約返戻金請求権等の上に質権を設定することができなかったものである。しかし、原告は、<1>被告と本件各保険契約者との間には本件各保険契約が有効、適正かつ妥当なものとして存在しており、したがって、有効、適正かつ妥当な保険契約の一時払保険料の立替払をするものであり、しかも、<2>本件各保険契約者が被告に対して有する解約返戻金請求権等の上に原告が第一順位の質権を設定できると誤信して、本件各立替払契約を締結し、本件各保険契約の一時払保険料を送金したものである。

よって、本件各立替払契約は、原告において、保険料支払義務の存在及び解約返戻金請求権等に対する質権の設定という重要な要素について錯誤があるから、無効である。

また、保険契約の内容の決定は、被告の責任において行う被告の専権事項であり、原告の関知し得ない事項である上、原告は、被告との長い取引関係において、被告が決定した保険契約の内容が有効、適正かつ妥当なものと信じたことは当然であるから、右<1>の誤信につき、原告に重過失はなく、原告が質権設定ができると信じたのは、被告から本件各契約者貸付けをする旨の事前の通知がされなかったためであるから、右<2>の誤信につき、原告に重過失はない。

(3)  保険契約の無効による立替払契約の無効

<1> 立替払契約の法的性質

本件各立替払契約は代位弁済契約の性質を有する準委任契約であるところ、本件各保険契約の無効により代位弁済すべき本件各保険契約者の保険料支払債務が存在しない以上、本件各立替払契約も原始的に履行不能であり、無効である。

<2> 保険契約と立替払契約との発生上の牽連関係

a 被告は、本件各保険契約締結の際、本件各保険契約者との間で、保険料支払債務について、本件各保険契約者に対する請求に代えて原告に請求し、原告からの保険料の支払が右債務の履行となることを右契約の内容として合意し、原告は、本件各立替払契約締結の際、本件各保険契約者との間で、これらの者の被告に対する保険料支払債務の履行として被告に対し保険料を支払うことを右契約の内容として合意した。そして、右本件各保険契約及び本件各立替払契約により、原告と被告との間で、被告が原告に対し直接の保険料支払請求権を取得し、原告は、被告に対し直接の保険料支払債務を負担するとの合意が成立した。

b 本件各フラワープランは、いずれもニッサンパックローン協定に基づく取引又はこれに類する取引であり、右協定が適用又は類推適用されるところ、原告と被告は、右協定を締結する際、立替払契約の成立は保険契約の成立のための必要条件であり両者は互いに牽連関係にあると認識していた。

c 本件各立替払契約は、原告、被告、保険契約者の右意思に基づき、又はニッサンパックローン協定に基づき、本件各保険契約と不可分一体のものとして発生上の牽連関係を有しており、前記(一)のとおり、本件各保険契約が無効である以上、無効となる。

(三) 不当利得の成立

(1)  利得及び損失

本件各立替払契約は前記のとおり無効であり、被告には原告からの立替金を受領すべき権限はないから、原告は、本件各立替払契約に基づき一時払保険料として送金した三三億六八八〇万円相当の損失を被り、被告は、これにより右と同額の利得を得た。

(2)  因果関係及び法律上の原因の不存在

原告の右損失と被告の右利得とは因果関係があり、かつ被告の利得には法律上の原因がない。

(3)  被告の悪意

被告の担当者及び代理店は、本件各保険契約が無効であり、原告が支払った一時払保険料が無効な保険に対しての支払であることを知り又は知らないことについて重大な過失があった。したがって、被告の担当者及び代理店は、原告から被告に立替金が送金された時点において、右立替金が法律上の原因なくして被告に送金されたことについて悪意であったことになる。また、被告の担当者及び代理店は、本件各保険契約の締結及び一時払保険料の受領を被告の事業のために行ったのであるから、被告の担当者及び代理店の悪意は、被告自身の悪意となる。

(4)  よって、被告は、原告に対し、三三億六八八〇万円及び右各送金日からの遅延損害金を支払うべき義務を負う。

(被告の主張)

(一) 本件各保険契約の無効について

(1)  公序良俗違反の主張について

本件各保険契約者が契約者貸付制度を利用する目的で本件各保険契約を締結したからといって、本件各保険契約が無効となるわけではないし、大蔵省の不動産融資規制通達を潜脱し、保険業界の自主規制等に抵触していたとしても、本件各保険契約が当然に無効となるわけではない。

(2)  商法違反の主張について

仮に原告主張の事由があるとしても、右事由は保険事故発生後、保険金支払の時点で問題となるにすぎないから、本件各保険契約が当然に無効となるわけではない。

(3)  立替払契約の無効による保険契約の無効の主張について

本件各立替払契約と本件各保険契約は別個の法律関係であるから、本件各立替払契約が無効であるからといって当然に本件各保険契約が無効となるわけではない。

(4)  調査義務違反の主張について

被告は原告が主張するような調査義務を負わない。

(二) 本件各立替払契約の無効について

(1)  無権代理等の主張について

森口は、本件各立替払契約の代理権を有していたし、仮に代理権を有していなかったとしても、被告には商取引上、代理権の有無を森口の上司等に確認すべき注意義務はないから、森口に代理権があると信ずるについて正当の理由があり、表見代理が成立する。

(2)  錯誤無効の主張について

本件各立替払契約は融資契約であり、融資金債権は原告自らの手によって保全されるべきものであり、また、解約返戻金等に対する質権設定はフラワープランと矛盾するものであるから、本件各保険契約の有効無効、また、質権設定の有無とは無関係のものである。

(3)  保険契約の無効による立替払契約の無効の主張について

本件各保険契約と本件各立替払契約は別個の契約であり、牽連関係はない上、前記とおり本件各保険契約は無効ではない。

(三) 不当利得について

前記のとおり、本件各保険契約と本件各立替払契約は有効であるし、両契約は別個の法律関係であり、牽連性はない。

2  債務不履行に基づく損害賠償責任の有無

(原告の主張)

原告と被告は、昭和六二年一〇月一日に従前の契約を更新して「ニッサンパックローン協定書」(甲一。以下「本件協定書」という。)により業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結したので、被告は、右契約に基づき、又は右契約の類推適用に基づき、あるいは右契約から発生した保護義務に基づいて、以下の義務を負っていたにもかかわらず、以下のとおり、右義務違反の行為を行い、原告に損害を与えたので、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

原告は、被告に一時払保険料として合計三三億六八八〇万円を送金したが、本件各保険契約者から合計三億六七八二万四〇八六円しか返済されず、残金は返済不能の状態であるから、原告の損害額は、右回収金を控除した三〇億〇〇九七万五九一四円である。

(一) 本件協定書に基づく提携契約違反

(1)  信義誠実義務違反

本件協定書一条により、被告は、保険契約者との間の保険種目の決定、保険の目的の調査、保険料の算定等保険契約の内容について、その責任においてすべて処理し、社会的に妥当で法的に有効かつ適正な保険契約を締結すべき義務を負っていたにもかかわらず、これに違反し、原告に損害を与えた。

(2)  保険代理店に対する指導・監督義務違反

本件協定書三条及び募取法一一条、一六条により、被告は、代理店に対し違法・不当な保険契約を締結しないよう適切な指導・監督をすべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った結果、代理店は、本件各保険契約が契約者貸付けを目的とするものであり、架空保険等に該当すること、及び本件各保険契約者の資力が不十分であることを知り又は容易に知り得たのにもかかわらず、本件各保険契約を締結して原告に一時払保険料を送金させ、原告に損害を与えた。

(3)  質権設定承認義務(債権保全協力義務)違反

本件協定書五条により、被告は、一時払保険料を立替払した原告の債権保全のために、保険契約者との間の解約返戻金請求権等の上に原告を第一順位とする質権が設定されること、及び所定の手続に従って原告から被告に対し質権設定の承認請求があった場合にはこれを承認する義務を負う。また、これを承認しないで、被告において保険契約者の資力が十分でないことを知り又は容易に知り得べき場合には、これを事前に原告に通知するなどして、原告の債権保全に協力すべき義務を負う。しかるに、被告はこれらを怠り、原告に損害を与えた。

(4)  契約者貸付け実行の事前通知・承認取得義務違反

本件協定書八条により、被告は、契約者貸付けを行う場合には、事前にその旨を原告に通知するとともに、原告の承認を得る義務を負うにもかかわらず、これに違反し、原告に通知し承認を得ることなく本件各契約者貸付けを行い、原告に損害を与えた。

(二) 本件協定書の類推適用に基づく提携契約違反

原告と被告は、本件業務提携契約を締結したから、その後、協定上の取引と同種の取引を行う場合には、本件協定書が類推適用され、被告は、本件業務提携契約に基づく義務と同様の義務を負う。

そして、本件各立替払契約は、右協定上の取引と同種の取引であるところ、被告は、前記のとおり、右義務に違反して原告に損害を与えたから、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う

(三) 保護義務違反

原告と被告は、本件業務提携契約を締結し、継続的契約関係にあったから、被告は、信義則(民法一条二項)上、相手方の財産的利益を侵害しないように配慮すべき義務(保護義務)を負うところ、右保護義務の内容である以下の義務を怠り、原告に損害を与えた。

(1)  信義誠実義務

社会的に妥当で、法的に有効かつ適正な保険契約を締結すべき義務

(2)  保険代理店に対する指導・監督義務

保険代理店に対し、違法・不当な保険契約の立替払によって、原告に損害を与えないように適切な指導・監督をする義務

(3)  事前照会・確認義務

協定外の取引を行うことの可否、原告の質権設定の要否、不正行為の可能性について、事前に原告に照会・確認する義務

(被告の主張)

本件各保険契約及び本件各立替払契約は、本件業務提携契約に基づくものではない上、被告は原告が主張するいずれの義務をも負っていない。

また、本件の発端は森口の行為によるものであるから、仮定的に過失相殺を主張する。

3  不法行為に基づく損害賠償責任の有無

(原告の主張)

被告の担当者、代理店又は被告は、後記(一)以下の不法行為を行った。

被告の担当者及び代理店は、本件各保険契約の締結業務に従事した被告の被用者であるから、被告は、民法七〇九条若しくは同法七一五条又は民法七〇九条、七一九条一項、二項、七一五条により、原告に対し、損害賠償責任を負う。

原告は、被告に一時払保険料として合計三三億六八八〇万円を送金したが、本件各保険契約者から合計三億六七八二万四〇八六円しか返済されず、残金は返済不能の状態であるから、原告の損害額は、右回収金を控除した三〇億〇〇九七万五九一四円である。

(一) 適法・適正な保険契約を締結する義務違反

被告の担当者及び代理店は保険契約の締結業務に従事する者として、また、被告は保険業を営む者として、適法・適正な保険契約を締結する注意義務を負うにもかかわらず、被告の担当者、代理店及び被告は、原告が本件各保険契約の一時払保険料を立替払することを知りながら、故意又は過失により、被告の契約者貸付けを実行するために違法・不当な保険契約を締結し、そのことを原告が知ったならば、原告がその一時払保険料を立替払することはないことを知りながら、これが適法・適正な保険契約であると装って、原告からその一時払保険料を送金させ、原告に損害を与えた。

(二) 債権侵害回避義務違反

被告は、原告に無断で契約者貸付けを実行するなどして、原告の立替金債権保全の機会を奪ってその回収を困難にし、原告の債権を危険な状況に陥らせてはならない注意義務を負うにもかかわらず、被告の担当者、代理店及び被告は、被告の契約者貸付けを実行するために本件各保険契約を締結した上、契約者貸付けを実行した結果、原告が質権を設定できないと知れば、一時払保険料を立替払することはないことを知りながら、そのことを原告に秘して原告をして本件各保険契約の一時払保険料を送金させるとともに、原告の立替金債権保全のための質権設定あるいは他の債権回収手段を講ずる機会を失わせ、原告に損害を与えた。

(三) 保険契約者の信用状態についての通知義務違反

原告のための質権設定がされない場合において、被告の担当者、代理店及び被告は、保険契約者の資力が十分でないことを知りあるいは容易に知り得べきときには、保険契約者の資力につき、原告に対し事前に通知すべき注意義務を負うにもかかわらず、本件各保険契約者との間に、被告の契約者貸付けを実行するために本件各保険契約を締結した上、被告が契約貸付けを実行し、原告の質権設定を承認しないこと、及び本件各保険契約者には、原告に対する立替金債権を支払う資力がないことを原告に秘して、原告から一時払保険料を送金させ、原告に損害を与えた。

(四) 被告の担当者、代理店は、森口が原告の社内規定等に違反して不正行為を行い、原告に損害を与えることを知りながらあるいは知り得べきであるのに安易にそれを看過して、被告の契約者貸付けを実行するために、違法で、かつ原告が質権を設定できないのに、一時払保険料を送金させ、原告に損害を与えた。

(被告の主張)

被告は、原告が主張する注意義務を負っていない。

保険代理店は独立した商人であり、被告の使用人ではない。

また、本件の発端は森口の行為によるものであるから、仮定的に過失相殺を主張する。

第三当裁判所の判断

一  本件各保険契約の成立に至る経緯等

争いのない事実等及び証拠(甲一、五九ないし六六、一八七ないし一八九、一九九、二〇一の1ないし3、二〇三、二〇五、二〇六、二〇七の1ないし4、10、二〇八ないし二一〇、二一一、乙三二、三三、証人森口房好、同高柴謙二、同重井満也、同川久保達也、同大内睦弘)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  ニッサンパックローン協定

(一) 原告は、自動車を購入する顧客等に対して、購入代金等を自動車販売会社に立替払することを主な業務としている信販会社であるが、昭和五七年、日産火災海上保険株式会社との間で、同社に一時払保険料を立替払して、同社が保険契約者に融資をするというニッサンパックローン協定を締結して、その業務を開始し、その後更に他の損害保険会社とも右と同様の協定を締結して、取引を拡大していった。

当初、ニッサンパックローン協定においては、原告が、保険契約者の損害保険会社に対する保険金請求権等に質権を設定して、保険契約者に対する立替金債権を保全するものとされており、それ以外の債権保全方法は想定されていなかった。

(二) その後、原告は、損害保険会社が保険契約者に対して契約者貸付けを行う商品を販売することにしたため、昭和六一年、各損害保険会社との間でニッサンパックローン協定を更新する際に、損害保険会社が原告の事前の承諾を得て契約者貸付けをすることができる旨の規定を追加した。

(三) ところが、大蔵省は、損害保険会社の契約者貸付けとクレジット会社の保険料ローン(立替払)とがセットとなる仕組みの商品は、保険契約者が二重に金利を負担するダブルローンであるなどとして、損害保険会社に右商品の見直しを行政指導し、その結果、損害保険会社は、昭和六二年二月以降、右商品の販売を中止し、原告に対し、その取扱いを中止する旨通知した。

2  本件協定書の締結

(一) 原告は、被告との間で、昭和六二年一〇月一日、ニッサンパックローン協定を更新した本件協定書(甲一)による協定を締結し、以後、その取引を行った。本件協定書には、依然として契約者貸付けの規定が存在していたが、損害保険会社からの右通知により、事実上右規定は失効した。そして、昭和六三年以降に原告と各損害保険会社との間で取り交わされた協定書からは、契約者貸付けに関する条項が削除された。

また、原告は、本件協定書において質権設定・消滅の手続を簡易化し、以後、通常のニッサンパックローンの取扱いは増加していった。

(二) 原告社内の決裁権限

ところで、原告社内の与信決裁規定(甲六〇)上、ニッサンパックローンの決裁権限は、原告が質権設定を受けることを前提として、原告がリスクを負担する原告の立替払額と解約返戻金等との差額(解約リスク)である立替払額の五パーセントの金額を基準として、五〇万円(立替払金額一〇〇〇万円)までは営業所長が、一〇〇〇万円(同二億円)未満は支社長が、二〇〇〇万円(同四億円)未満は地区担当役員が、二〇〇〇万円(同四億円)以上は社長が決裁権限を有し、支社長以上の決裁で解約リスクが七〇〇万円を超える場合(同一億四〇〇〇万円)、所定の大口融資決裁報告書を本社に送付することとされていた。

3  フラワープラン

(一) 平成二年三月、大蔵省がいわゆる総量規制の通達を発令し、金融機関の不動産業者に対する融資が制限されていたところ、安田火災海上保険株式会社(以下「安田火災」という。)は、同年六月ないし七月ころから、事業者に対して資金を提供する方法として、安田火災と事業者(顧客)が保険契約を締結する際、金融機関がその一時払保険料を融資し、これにより安田火災は顧客に契約者貸付けを実施するが、金融機関は顧客に対する立替金債権を保全するため、顧客の所有不動産等に抵当権を設定するという仕組みの金融機関との提携商品(フラワープラン)の販売を開始した。そして、事業者が右商品を利用することにより資金を調達する場合、金融機関に対する返済と安田火災に対する契約者貸付金の返済を二重に行うことになるが、事業者は、保険の満期返戻金と配当金を得ることができ、契約者貸付金の返済には満期返戻金を充てることができるので、金融機関への利息分の支払のみが問題となり、しかも、二重に支払う利息は経費として処理でき、節税効果があるとされていた。

(二) 森口と重井との関係

森口は、平成二年当時、原告の関西支社大阪営業所の所長代理として、ニッサンパックローン等の保険料クレジットの営業、実行、管理及び債権回収等の業務に従事していたところ、同年七月ころに安田火災営業開発部第二課の山本健一と、同年九月ころに安田火災や被告の保険代理店であった株式会社ファイナンシャルステーション大阪(以下「FS大阪」という。)の代表者である重井満也(以下「重井」という。)と知り合った。

そして、森口は、同年一〇月ころ、山本健一と重井から、安田火災で行っていた前記提携商品の販売、すなわち、原告が顧客の所有する不動産を担保に取って保険料の融資を行い、右融資金を安田火災に送金して安田火災と顧客との間に保険契約を締結させ、その上で右保険契約に基づいて安田火災が顧客に対し契約者貸付けを行うことで、顧客に資金を得させることを目的とするフラワープランの販売を原告のニッサンパックローンを利用して行うことの申入れを受け、その際、フラワープランを実行した場合に重井の受領する代理店手数料や顧客からの紹介料を分配することも提案された。

(三) フラワープランの稟議

森口は、同年一一月一九日、原告本社に対し、安田火災との提携のフラワープランを実施することの申請書を稟議に上げ、その結果、フラワープランについては案件毎に個別申請すること、満期返戻金から契約者貸付けの元利金合計額を差し引いた金額について、顧客から原告の代理受領を認める旨の承諾書を徴求し、事故発生の場合は安田火災に対し右承諾書を示して右差額分の金員を受領できるようにすること、すべて社長の決裁を経ることなどを条件にして、同年一二月七日、社長の決裁により了承された。

なお、フラワープランは、一時払保険料を立替払するという面ではニッサンパックローンと共通していたため、専用の契約書を使用しないで、ニッサンパックローンの契約書を使用することとされた。

(四) ところが、森口は、以後、フラワープランについて、右(三)のような決裁手続が定められたにもかかわらず、これを履践せず、かつ、十分な担保を取ることのないまま、複数の損害保険会社との間で多数回にわたってフラワープランを実行したものであるが、本件各フラワープランもその一部として実行されたものである。

4  本件フラワープラン(一)ないし(四)、(六)の実行について

(一) 森口と高柴との関係

高柴謙二(以下「高柴」という。)は、保険代理店である株式会社壱プランニング及び株式会社東京貴創の代表者である。

森口は、平成二年一一月ころ、安田火災近畿営業推進部営業推進課課長の玉谷一夫(以下「玉谷」という。)から、阪和興業株式会社総務部管理課課長代理であった小原務(以下「小原」という。)を紹介された。小原は、森口、山本健一及び重井がフラワープランを実行しようとしていることを知って、同月下旬ころ、森口に安田火災以外の損害保険会社との間でもフラワープランを実行するよう求め、同年一二月初めころ、高柴を紹介した。高柴は、小原から既にフラワープランの内容の説明を受けて知っており、森口に対し、保険代理店としての売上げを伸ばすためにフラワープランを取り扱わせてほしい旨要請した。森口は、高柴との間で、高柴が受領する代理店手数料を分配することも協議した上で、高柴の要請を受け入れ、フラワープランを実行することにした。

なお、高柴は、保険代理店として各保険会社の担当者とは面識があったので、右担当者らに対し、フラワープランの説明をした。

また、高柴は、被告長野支店上田支社支社長川久保と昭和五五年ころからの知人であり、平成二年四月ころから営業上の付合いがあったところ、同年一〇月中旬ころ、川久保に対し、事業者が金融機関から不動産担保で保険料の融資を受けて被告と保険契約を締結し、被告から契約者貸付けを受けるという内容の商品の取扱いを打診したので、川久保は社内で検討した上でこれを採用し、高柴からの具体的な顧客の紹介を待っていた。

(二) 経営コンサルティング、金融業等を営む新日本ファンドの代表者中村英幸(以下「中村」という。)は、同年一二月ころ、高柴から森口を紹介された。中村は、他の不動産業者とともに、特別養護老人ホームの建設を計画しており、その建築資金約一四億円の調達のため、高柴・森口にフラワープランによる融資を依頼した。高柴は、契約者貸付額を一四億円にすると保険金額が極めて高額になるため、保険会社を被告と日本火災海上保険株式会社(以下「日本火災」という。)に振り分けることとして、川久保及び日本火災担当者に対し、フラワープランの内容を説明し、それぞれ一時払保険料を八億円とする保険契約を締結することとし、本件フラワープラン(一)を実行した。

(三) スキー場経営会社であるまんさく高原の代表者伊藤堅吉(以下「伊藤」という。)は、スキ-場等のリゾート事業を計画していたが、総量規制下において銀行等金融機関からの融資が困難であったため、知人であった中村に対し、事業資金等の調達を依頼していた。中村と高柴は、右資金調達のため、森口にフラワープランによる融資を依頼した。高柴は、伊藤の所要資金が約四〇億円と高額であったため、川久保のほか数社の保険会社担当者と協議して、保険会社数社に振り分けるとともに、保険契約者も伊藤のグループ会社に振り分けることとした。そこで、被告とは、伊藤のグループ会社である松村企画(契約時の代表者は伊藤の妻である伊藤恭子)と一時払保険料を約一二億円とする保険契約を、まんさく高原と一時払保険料を約六億円とする保険契約を締結することとし、本件フラワープラン(二)及び(四)を実行した。

(四) ホテル・レストラン等の事業を営むエンドレスの代表者鳥川裕(以下「鳥川」という。)は、従前から中村と付合いがあった。中村は、鳥川に対し、フラワープランの実行に協力するよう依頼していたところ、鳥川が、平成三年三月ころ、中村に対し、フラワープランを利用した自己の事業資金の融資を依頼したので、中村、高柴は、エンドレスと被告とが一時払保険料が約二億三三八〇万円の保険契約を締結することとし、本件フラワープラン(三)を実行した。

(五) 運送業等を主たる業務とする武蔵野商事配送センター代表者安田友義(以下「安田」という。)は、事業資金の調達を従来からの取引金融機関等に依頼していたが、平成三年当時、総量規制により、右金融機関等から融資を受けるのが困難となっていた。そこで、安田は、以前からの知合いであった高柴に資金調達を依頼したところ、高柴は、フラワープランを利用することとし、本件フラワープラン(六)を実行した。

5  本件フラワープラン(五)の実行について

重井は、平成二年一〇月ころから、当時被告大阪南支店営業課員であった大内と営業上の付合いがあった。大内は、そのころから、FS大阪専務取締役遠藤から、事業者がノンバンクから不動産担保で保険料の融資を受けて保険契約を締結し、契約者貸付けを受けるという商品の説明を受けていた。

重井は、平成三年三月ころ、元三和銀行行員から、ビル建設資金を必要としている北嶋勲(本件フラワープラン(五)の契約者である北嶋の息子)を紹介され、資金調達を依頼されたので、その所要資金を被告のほか保険会社数社のフラワープランで調達することとし、その旨大内(既に東京営業第一部駿河台営業課に転勤になっていた。)に連絡し、本件フラワープラン(五)を実行した。なお、大内は、右契約締結のときに森口と会った際、質権設定の有無について尋ねたところ、森口は、不動産担保を設定するので不要である旨答えた。

6  本件各フラワープランの実行過程

(一) 本件各フラワープランの被告の担当者は、川久保(本件フラワープラン(一)ないし(四)、(六))及び大内(同(五))であったが、いずれも本件各保険契約の付保対象物件について何らの調査も行わず、また、原告からの本件各保険契約者への融資手続に全く関与しておらず、原告が、本件各保険契約者に対して立替金債権の十分な担保を取得しているか否かについても何ら注意を払わなかった。

(二) 前述のとおり、フラワープランについては、すべて個別の申請及び社長決裁が必要であったが、森口は、本件各フラワープランについて右決裁を全く経ていなかった。また、フラワープランで予定されていた不動産担保等の十分な債権保全措置を取っていなかった。

7  なお、森口は、平成四年一二月、原告内部の決裁手続を経ないでフラワープランを実行した件で、背任罪として起訴され、平成一一年三月二四日、大阪地方裁判所において、懲役四年の有罪判決を受けた。

また、重井も、森口の共犯として起訴され、平成六年三月四日、大阪地方裁判所において、懲役三年の有罪判決を受け、その後控訴及び上告をしたが、いずれも棄却された。

二  森口の背任行為及び被告の担当者らの故意又は過失

1  森口の背任行為

まず、前記一で認定した事実によれば、森口は、平成二年当時、原告の関西支社大阪営業所の所長代理として、ニッサンパックローン等の保険料クレジットの営業、実行、管理等の業務に従事していたのであるから、対外的に原告の代理人としてニッサンパックローンの実行による契約締結権限を有していたものというべきである。そして、森口は、一時払保険料を立替払するという点でニッサンパックローンと共通点を有するフラワープランについても、社長の了承を得ていたので、対外的に原告の代理人としてその実行による契約締結権限を有していたものというべきである。もっとも、森口は、フラワープランの場合に必要とされていた原告社内の個別申請及び社長決裁手続を履践しなかった上、十分な担保も取らずに、それを実行したことが認められるので、右事実によれば、森口がした本件各立替払契約の締結は、その勤務する原告に損害を加えることのないよう誠実にその職務を行うべき任務に違背し、その権限を濫用してしたものであり、原告に対する背任行為であったということができる。

2  被告の担当者らの故意又は過失について

原告は、被告の担当者川久保及び大内が、森口の右背任行為を知っており又は知らないことにつき過失がある旨主張するので、以下検討する。

前記一において認定した事実及び証拠(証人川久保、同大内)によれば、川久保らは、森口・高柴・重井から、フラワープランの内容(実質的には、不動産等の担保による原告の顧客に対する融資というべきものであり、この融資を実行する手段方法として、顧客の締結した保険契約の契約者貸付けを利用するものであること)について説明を受けたが、森口が背任行為をしているとは考えていなかったこと、本件各保険契約の保険料や保険金額は、本件各保険契約者と森口らが主導的に決定し、高柴や重井が複数の保険会社に振り分けるなどしており、川久保らはこれに関与していないこと、川久保らは、保険金請求権等に原告の質権が設定されることがないことを当然と考え、本件各保険契約の付保対象物件のみが原告の立替金債権の担保となるとは考えておらず、むしろ原告の取得する不動産等の担保に関心はなく、担保は原告において適正に処理されるものと考えていたことが認められる。

そして、森口は、原告の関西支社大阪営業所の所長代理として、ニッサンパックローン等の保険料クレジットの営業、実行、管理等の業務に従事していたのであるから、そのような森口がニッサンパックローンの変形ともいうべきフラワープランを実施する以上、それが原告内部で正式に承認された適正なものであると信じるのが通常である上、川久保らが説明を受けたフラワープランの実質的な内容によれば、川久保らが原告の取得する担保の内容に関心はなく、原告において適切に処理されるものと考えたことも無理からぬことであることからすれば、特段森口の背任行為を疑わせるような事情が認められない本件においては、その保険料等が高額であることや、損害保険契約の付保対象物件について調査をしていないことから、直ちに川久保らが、森口の背任行為について知っていたとか、森口が原告社内で定められた決裁手続を経ているかどうか、原告が担保を取得したかどうか、原告が取得した担保価値が相当なものかどうかについて、森口や原告の他の者に確認すべき注意義務があるとまでは断ずることはできないというべきである。

なお、原告は、本件各フラワープランが非常に短期間で実行されている点を指摘し、被告らの悪意等を主張するが、短期間での融資が必要な場合に、原告の担当者である森口があらかじめ上司に報告するなどして実質的な決裁手続を経ておくことも容易に想定し得ることであるから、右指摘された事情が森口の背任行為を疑わせるような事情であるとも認め難い。

したがって、川久保らに森口の背任行為につき故意又は過失があったとはいえない。

なお、本件各保険契約者が森口の右背任行為につき故意又は過失があったと認めるに足る的確な証拠はない。

三  争点1(不当利得)について

1  原告は、本件各保険契約や本件各立替払契約が無効であると主張し、原告が被告に支払った保険料を不当利得としてその返還を求めているので、本件各立替払契約の効力について検討する。

(一) 無権代理等の主張について

原告は、まず、森口には本件各立替払契約を締結する権限がなかった旨主張するが、この主張に理由がないことは既に判示したとおりである。

また、本件各立替払契約は、森口がその権限を濫用してした背任行為に基づくものであることは既に判示したとおりであるが、本件各保険契約者がこの点について悪意又は過失があったと認めるに足る証拠はないので、本件各立替払契約を無効と解することはできない。

(二) 錯誤無効の主張について

次に、原告は、本件各保険契約が有効で、適正かつ妥当なものであると誤信して本件各立替払契約を締結したとして、これらの契約が無効であると主張する。

しかしながら、前記一のとおり、本件各立替払契約は、本件各保険契約を前提として、原告がその保険料を支払い、本件各保険契約者が右立替金及び手数料を分割して支払うというものであるから、両契約が経済的、実質的に密接な関係にあること自体は否定し得ないものの、法的には契約当事者を異にする別個の法律関係であるといわざるを得ない。

しかも、本件各立替払契約に関する契約書であるニッサンパックローン契約書(甲三等)二条、八条及び九条には、本件各保険契約者が保険契約の頭金の支払をしないことによって本件各保険契約の効力が発生しない場合には本件各立替払契約は遡って効力を失うが、本件各保険契約がその余の事由によって無効となる場合には、本件各立替払契約は有効であって、原告に対する立替金の返還義務が本件各保険契約者に生じる旨明記され、また、七条では、本件各保険契約の無効返戻金請求権に質権が設定されることが予定されているところ、これらの規定は、本件各保険契約が無効とされても、それを理由に本件各立替払契約が無効とならずに有効として存続することを前提とするものであると解される。

そうすると、仮に、本件各保険契約の効力について原告が主張するような錯誤があったとしても、法律行為の要素に錯誤があったということはできないというべきである。

また、原告は、本件各保険契約者が被告に対して有する解約返戻金請求権等の上に第一順位の質権を設定できると誤信していたとも主張するが、既に判示したとおり、本件ではフラワープランが実行されたのであって、もともと原告が右解約返戻金請求権等に質権を設定することは前提となっていなかったのであるから、原告にこの点に関する錯誤があったということもできない。

したがって、本件各立替払契約が錯誤によって無効であるとする原告の主張は理由がない。

(三) 本件各保険契約が無効であることから本件各立替払契約も無効となるとする主張について

原告は、本件各保険契約が無効であれば本件各立替払契約も原始的に無効になると主張するが、このような主張に理由がないことは右(二)において判示したところから明らかである。

また、原告は、原告、被告及び本件各保険契約者の意思あるいは合意又はニッサンパックローン協定に基づいて、本件各立替払契約と本件各保険契約とは不可分一体のものとして発生上の牽連関係を有しているとも主張する。

しかしながら、右(二)においてみたとおりの本件各立替払契約における条項に加え、本件協定書(甲一)にも、立替金債権を保全するために保険契約者の無効返戻金請求権に質権を設定することを予定した条項(五条、六条)があることをも考慮すれば、これら当事者間において立替払契約と保険契約との間に牽連性を認める意思あるいは合意はなかったものと認めることができる。

そうすると、本件各保険契約が無効であることによって本件各立替払契約が無効になるとする原告の主張も理由はない。

2  そこで、以上のような検討を前提として、原告の被告に対する不当利得返還請求の当否について判断することとする。

(一) まず、原告が主張する損失とは、被告に対して立替金の名目で金銭を交付したことをいうものと解されるのであるが、立替払契約が有効であるとすれば、原告は、被告に立替金を交付することによって、保険契約者の被告に対する保険料債務が消滅すると否とにかかわらず、保険契約者に対する立替金債権を取得するところ、これは、金銭という財貨が債権に置き換わったものということができるから、原告に損失が生じたということはできない。

(二) また、原告が主張するように、本件各保険契約の全部又は一部が無効であると仮定してみても、このような場合には、被告は、本件各保険契約者に対して無効返戻金の支払義務を負担することとなるから、被告には利得がないというべきである上、既に判示したとおり、被告は、本件各保険契約を締結した後、本件各保険契約者に対して契約者貸付けを行い、その後本件各保険契約者からの申入れを受けて本件各保険契約が解約された際に、原告又は本件各保険契約者に対して契約者貸付金と解約返戻金との差額を支払っているので、被告が現実に利得を保有しているとみることもできない。

(三) そうすると、原告の不当利得返還請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  争点2(債務不履行)について

1  本件協定書に基づく提携契約違反の主張について

(一) 原告は、本件協定書一条により、被告には、社会的に妥当で法的に有効かつ適正な保険契約を締結すべき義務があったと主張する。

証拠(甲一)によれば、本件協定書一条には、「本ローンは、甲(被告)並びに乙(原告)の有する保険市場、消費者金融市場の健全なる育成と併せて相互の事業の拡大に資することを目的とする。」と定められていることが認められる。

しかし、同条は、原告及び被告が本件協定書を締結する目的を規定したものにすぎない上、その内容も抽象的、一般的なものにとどまり、これをもって、直ちに、被告が顧客との間で有効かつ適正な保険契約を締結するという具体的な義務を原告に対して負っていると認めることはできない。

よって、原告の右主張は理由がない。

(二) 次に、原告は、本件協定書三条及び募取法一一条、一六条により、被告には、代理店に対して適切な指導・監督をすべき義務があったと主張する。

証拠(甲一)によれば、本件協定書三条には、「甲(被告)及び乙(原告)は、本ローンを利用した保険販売の健全な伸長を期すため互いに協力するものとし、甲(被告)は本ローンを取扱う代理店等に対し適切な指導を行うものとする。」と規定していることが認められるが、右規定は極めて一般的、抽象的な内容にとどまり、右規定から直ちに、被告が代理店に対し、有効かつ適正な保険契約を締結するよう指導・監督すべき義務を原告に対する具体的義務として負担しているとは認められないというべきである。また、募取法一一条は、所属保険会社の損害保険代理店等が募集につき保険契約者に加えた損害を賠償する責任を規定するにすぎず、同法一六条は、保険契約者を保護するために損害保険代理店等の保険契約の締結又は募集に関する禁止行為を規定するにすぎないから、右規定から直ちに、被告が代理店に対し、有効かつ適正な保険契約を締結するよう指導・監督すべき義務を原告に対する具体的義務として負担していると認めることはできない。よって、原告の右主張は理由がない。

(三) また、原告は、本件協定書五条により、被告は、原告の質権設定を承認し、これを承認しない場合には顧客の資力状況を原告に通知するなどして原告の債権保全に協力すべき義務を負っていたと主張する。

しかし、前記一で認定したとおり、本件はフラワープラン、すなわち、原告と顧客がその所有不動産等に抵当権を設定して立替払契約を締結し、原告が一時払保険料相当額を被告に送金して、被告と顧客との間で損害保険契約を締結させ、被告が顧客に対し契約者貸付けを行うことで、顧客に資金を融通する仕組みに基づいてされた取引であり、原告が顧客の解約返戻金請求権等に質権を設定しないことがその前提とされている契約であって、原告も被告の担当者もそのような認識であったのであるから、被告が原告に対し、原告の質権設定を承認する義務を負っていたとは認められない。また、原告の債権保全は、信販会社たる原告の責任においてされるべき事柄であり、本件各フラワープランにおいても、原告及び被告間でそのように認識されていたのであるから、被告が原告に対して原告の債権保全に協力すべき義務を負っていたとは認められない。よって、原告の右主張は理由がない。

(四) また、原告は、本件協定書八条により、被告は、契約者貸付けを実行する際、原告に事前に通知し、原告の承認を得る義務を負っていたと主張する。

しかし、前記一で認定したとおり、本件はフラワープランに基づく取引であり、原告は被告が契約者貸付けを行うことを前提に本件各立替払契約を締結していたから、被告が契約者貸付けを実行する場合に原告に対し事前に通知する義務を負っていたとは認められない。よって、原告の右主張は理由がない。

2  本件協定書の類推適用に基づく提携契約違反の主張について

原告は、本件各立替払契約には、本件協定書が類推適用され、本件業務提携契約に基づく義務と同様の義務を負うと主張するが、本件業務提携契約に基づいて原告主張の義務が認められないことは前記1(一)ないし(四)において説示したとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

3  保護義務違反の主張について

原告は、被告は信義則上、相手方の財産的利益を侵害しないように配慮すべき義務(保護義務)を負っていたと主張する。

しかしながら、本件業務提携契約は企業同士の契約であり、右契約から発生する義務を個別具体的に明示することに何の支障もないから、本件協定書に明示されていない義務について、特段の事情のない限り法律上その不履行が債務不履行責任を負うことになる義務として認めることはできないところ、本件では右特段の事情もうかがわれない。そして、右保護義務の内容である信義誠実義務及び保険代理店に対する指導・監督義務については、これが認められないことは前記1(一)及び(二)において説示したとおりであるし、協定外の取引を行うことなどについての事前照会・確認義務については、本件協定書において明示されていない上、これを認めるに足りる特段の事情もないから、原告主張の保護義務はいずれも認めることができない。よって、原告の右主張は理由がない。

五  争点3(不法行為)について

1  代理店の行為についての被告の責任

原告は、代理店が被告の被用者であるとして、その不法行為について被告が使用者責任を負う旨主張する。

しかしながら、代理店は、継続的に商人の取引の代理又は媒介の業務を行う者であるが、右業務の委託者に従属するものではなく、独立の商人としてこれを行うのであって、両者の間に特別の指揮監督関係があるなどの事情がない限り、民法七一五条の使用者には当たらないというべきところ、被告と代理店との間にそのような特段の事情があると認めるに足りる証拠はないから、代理店が被告の被用者であるとは認められず、仮に代理店が不法行為を行ったとしても、これについて被告が使用者責任を負う根拠はない。

2  被告の担当者の行為についての被告の責任及び被告自身の責任

(一) まず、原告は、被告の担当者及び被告自身が、適法・適正な保険契約を締結すべぎ注意義務、原告の立替金債権を危険な状態に陥らせてはならない注意義務、又は、質権設定がされない場合に保険契約者の資力について通知すべき注意義務に違反した旨主張するが、被告の担当者及び被告自身が、原告に対し、本件協定書に基づいて右のいずれの注意義務をも負うものでないことは前記説示のとおりであるし、他に被告が右注意義務を負うと解すべき法的根拠も見出し難いから、原告の右主張は理由がない。

(二) 次に、原告は、被告の担当者等は、森口の背任行為を知り又はこれを容易に知り得たにもかかわらず、故意又は過失によりこれを看過した旨主張するが、前記二において説示したとおり、被告の担当者等は森口の背任行為について善意無過失であるから、原告の右主張は理由がない。

3  以上により、被告の使用者責任及び被告自身の不法行為を認めることはできないから、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

六  結論

そうすると、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 伊藤清隆)

別紙<省略>

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